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くろだじょすい

黒田如水

吉川 英治

「週刊朝日」朝日新聞社、1943(昭和18)年1月~8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 163,639 字 · 325 页

青空文庫

二

「…………」

「死ぬなよ。そのときには、腹を切って、信長公や、この筑前に、申し訳をせんなどと、狭量な考え方をするのでなければ――行って来るがいい。大いにやって来てくれい」

「死にませぬ」

またしても、この人の言には、哭かされてしまう。

官兵衛は、涙と筋肉を、顔中に闘わせながら、断固としていった。

「行って来ます」

「うむっ」

力づよい声を以て、秀吉は大きく頷いてくれた。官兵衛はすぐ退がった。

「後刻。あらためて、お暇乞いに、もう一度参上いたします」

二

自分の陣屋へ帰ると、彼はすぐ、

「太兵衛、馬を貸せ。そちの書写山を」

「どうぞ。――どこへお出ましで」

「味方の諸陣地を一巡見て来たい」

「では、お供仕りましょう」

母里太兵衛は、主人の駒につづいた。

平井山の本営を降りて、敵の牙城、三木の城に対峙している味方の前線布塁を、彼は一わたり見て帰って来た。

心なしか、七千余人の精兵を以て固めている敵の城中には、士気旺んなものが感じられた。荒木村重の突如たる安土への裏切は、あきらかにここの士気へ反映している。それを凱歌となしている歓びが敵に見られる。

しかも村重の挙に相継いで、摂津一帯の高槻の高山右近も、茨木の中川清秀なども続々、反旗をひるがえしたというし、この中国においてすら、御着の小寺一族が、それに呼応している状態であるから、