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くろだじょすい

黒田如水

吉川 英治

「週刊朝日」朝日新聞社、1943(昭和18)年1月~8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 163,639 字 · 325 页

青空文庫

四

「万一、不才のため、この官兵衛の力でも、村重どのを、思い直させることができなかった場合は何となされますか」

「旧縁深き荒木村重ではあるが、当方の情誼は尽したものとして、先に送った承諾を反古となしてもよい」

「かたじけのう存じます。そのおことばを聞くうえは、官兵衛は、百万の兵をつれて赴くような強味を感じまする。では、摂津方面の形勢、頓に険悪と聞きますれば、きょうにもお別れして」

「これへわしも書面をしたためておいた。書中、同様な意を尽してある。村重に面会の折、直々、手渡してくれい」

政職は、一書をさずけた。

四

山野の紅葉も黒々とたそがれかけているころ、黒田官兵衛はもう姫路端れの街道を馬打たせていた。

来るも、往くも、姫路は通りながら、老父や妻のいる姫山の城にも立ち寄らなかったのである。

だが彼の妻は、きのう城下の与次右衛門からの知らせで、良人の行動と目的は、つぶさに知っていた。きょうまた、その良人が、与次右衛門の店へちょっと駒をやすめて、ふたたび摂津へ立つと、使いの者から聞いたので、せめては、よそながらでもと、路傍の並木の陰に佇んで、良人の通るのを待っていた。