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くろだじょすい

黒田如水

吉川 英治

「週刊朝日」朝日新聞社、1943(昭和18)年1月~8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 163,639 字 · 325 页

青空文庫

二

――智者ハ却ッテ智ニ溺ル――。後に思えば、官兵衛生涯の不覚は実にこのときの読み違いにあった。

二

官兵衛の考えにしてみれば、小寺政職が彼にたいして、その書面のうちに、切に信長へ帰服することを勧めているものとすれば、村重が顔色を変えるのは、無理もないことで、むしろいかに主人小寺政職が、それを文の内容に強調しているかがわかるほどである――と、独りそう頷いていたものだった。

ところがである。何ぞ計らん、政職の手紙の内容は、思い及ばない事だったのである。

すなわち政職は、自分の手で官兵衛を刺殺することは甚だまずくもあり、四囲の変乱も予想されるので、その書中に、

――当家の家老官兵衛を、そちらへ使者としてさし向けたが、この者は由来強硬なる織田方の執心者故、この者あるうちはとかく毛利家とも尊兄との盟約も遂行いたし難い。よろしくこの機会に、ご城内において刺刀を加え、二度と中国へ帰ることなきように計らっていただきたい――

という旨が認められていたのである。

すぐ前にその当人がいることなので、――正直な村重はぎくと色を更えざるを得なかった。村重はまったく慌てた。しかし、智略自他ともにゆるす官兵衛はかえってそれを見誤っていた。