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くろだじょすい
黒田如水
吉川 英治
「週刊朝日」朝日新聞社、1943(昭和18)年1月~8月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 163,639 字 · 325 页
五
宿老の荒木久左衛門は、織田方へ軍使をたてて、
「われわれどもの妻子眷族を人質にさし出しましょう。それを以て、われら宿老どもが、尼ヶ崎まで参ることをお見のがしねがいたい。要は、主人摂津守村重に会って、ここをも開城し、尼ヶ崎や花隈城をも、無血開城いたすように、よくよくご意見をいたしてみます。――それでもなお摂津守が肯き入れぬ場合は、われらが先鋒となって、きっと尼ヶ崎も花隈も陥して、織田家の軍門に降るでありましょう。故に、万一主人摂津守が釈然と解けて、左右なく降伏に出られた場合は、どうかご助命の儀だけは伏しておねがい申しておく」
という趣意を申し入れた。
織田軍はこれをゆるした。で、荒木久左衛門と二、三の者は尼ヶ崎へ奔ったが、その結果はどうだったのか、日を過ぎても、織田軍には何の答えもない。いや、あとに残された全城の将士にたいしてすら何の報告もないのである。
「もう何の策など要ろうか。城外を掘り繞らす大袈裟な土木なども中止してよかろう。一益、てきぱきと、かねての計を行え」
織田信忠は、滝川一益に、こう命じた。一益は根気のよい智将であり、信忠は撃破の気さかんな若い大将である。