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くろだじょすい

黒田如水

吉川 英治

「週刊朝日」朝日新聞社、1943(昭和18)年1月~8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 163,639 字 · 325 页

青空文庫

二

「昨夜は、ご芳志の馳走に、妻子、兄弟、老臣、それらの女房子どもまでを一殿にならべ、皆楽しく、今生の思い出など語らいあい、明日の別れをも告げおうて、心ゆくまで名残りを惜しみました。――今日、申の刻には、小三郎以下、お誓約の如く、切腹仕りますれば、慥とお見とどけを願いたい」

秀吉側から検死が出向いた。

城中は大勢の手で塵一つないように清掃されてあった。時刻が近づくと、城主小三郎は、まだ若い夫人やその乳のみ子までに死装束を着せ、弟の彦之助、その他、一族とともに、広間を死の座として居流れていた。

ところが、その中の一名で、しかも三木一城の今日の運命を招来した発頭人であるところの別所賀相が、いつのまにか姿をかき消していた。

「叔父御のおすがたが見えぬが」

と、小三郎を始め、死ぬべき人々も、心懸りに待っていたが、何で起って行ったのか、賀相はいつまでも戻って来なかった。

――自分を説いて、強って織田軍に叛かせ、毛利によしみを通じて、今日の破滅を求めさせた責任者でもあり、また一族の中では最も重きをなしている叔父である。いかに疑おうとしても、この期に卑劣な行いがあろうとは、小三郎には何としても考えられないことだった。