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くろだじょすい

黒田如水

吉川 英治

「週刊朝日」朝日新聞社、1943(昭和18)年1月~8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 163,639 字 · 325 页

青空文庫

昆陽寺夜話

一

昆陽寺夜話

一

松千代が成敗されたことは、ひろく世間に信じられていた。まして旦夕主家の父子の身を気遣うこと、我身以上なものがあった一盟の黒田武士たちに、深思の遑もなく、それが直ちに信じられたのは決して無理ではなかった。

「このうらみは、きっとはらすぞ。今はなお、官兵衛様のご一身を助け出すまで、われらの身もままならぬが、いつかは必ず、半兵衛重治にたいし、この痛恨を思い知らせずに措くものではない」

ひとり衣笠久左衛門ばかりでなく、母里太兵衛も栗山善助も、悲涙のうちにこれを誓った。

僧形の久左衛門は、新七の家の仏間を借りうけて、

「仮ながらご供養を」

と、松千代の俗名をお位牌にしるして香華をささげ、太兵衛、善助などとともに、謹んで黙拝していた。

いつか黄昏れかけている。蜩の声が高い。

「お菊さん。昆陽寺の坊んさんが来ていますよ。こちらへ通しますかね」

細工場の職人が夕顔の垣根越しに、母屋のほうへ呶鳴っていた。

新七はお菊を見て、あわてて手を振った。

――ぐあいが悪い、通すなという眼合図であった。

「はい。いま参ります。ちょっと、お待ち願って下さい」

お菊は義兄の気もちをのみこみ顔に立って行った。