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くろだじょすい
黒田如水
吉川 英治
「週刊朝日」朝日新聞社、1943(昭和18)年1月~8月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 163,639 字 · 325 页
設計二図
一
ごゆるりお休みなされませ」
一言、老父に祝したきりで、彼はすぐ御着へ引っ返して行った。松千代の顔も見ずに、妻の無事も見ずに、帰って行くのだった。
御着の城と姫路の住居とは、わずか一里余の距たりに過ぎないのに、かくてこの一家族では、妻は良人を見、子が父親に接する日など、半年のうちに一度あるかないかであったのである。
設計二図
一
この正月からは、信長は安土の普請に着手していた。
彼の土木は、やはり彼の戦争のとおりだった。規模の大、構想の斬新、それは誰の設計でもなく、彼の創作によるものだった。衆智をあつめて衆智を越え、東山様式の因習を破り、大がかりなこと、豪壮華麗なこと、天下の耳目をあつめるに足りた。しかも工事の督励は急速を極めて、夜も日もあったものでなく、起工以来まだ一年にも満たないまに、湖畔の一丘には大体その骨組を完成し、広茫な桑田や畑は、新しい城下町と化していた。
普請奉行は、丹羽長秀、明智光秀などが分担していた。きょうも彼は、すぐ麓の桑実寺から登って来て、
「わしの住居はまだか。天守の七重だけでも、総懸りで仕上げを急がせい」
と、性急に催促しながら、戦のような現場を視て廻っていた。