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くろだじょすい

黒田如水

吉川 英治

「週刊朝日」朝日新聞社、1943(昭和18)年1月~8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 163,639 字 · 325 页

青空文庫

三

「お庭づたいに、ずっと北の方へ降りて、お櫓下のうしろを通り、天神池のほうへ行ってごらん」

「えっ。――天神池ですか」

「怖いの」

室殿はおかしそうに笑った。

「いいえ。怖いわけではございません」

彼女は、蛍籠を抱いて、教えられた方角を、星あかりの道に求めて行った。およそ城の中のわけても搦手寄りの方は丘や林や浅い谷などもあって、夜などは殊に山の中を歩くのと少しもちがわなかった。

三

いる、いる、ほんとにいる。夥しい蛍が群れをなしている。

暗い所ほど美しい燐光を描いて飛び交い、水辺の危ないところほど、蛍が鞠のようにたかっていた。

だが、この辺は、湿潤な地で鼻を抓ままれても分らないほどな闇だった。池のなぎさは微かにわかるが、藤棚から藤のつるが思いのまま伸び蔓延っているし、所々には、亭々たる大樹が二重に空を蔽っている。

しかし彼女は、怖さも、不気味さも、何も思わなかった。ただこの城へ入るまえに、義兄の新七からはなされていたことばを胸に呼んでいるだけだった。

(たしかに、この池にちがいない。この辺りにちがいない――)と。

蛍は追わなくても、袂や胸にたかってくる。じっと、かがみこんで、それを籠に捕るあいだに、