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くろだじょすい

黒田如水

吉川 英治

「週刊朝日」朝日新聞社、1943(昭和18)年1月~8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 163,639 字 · 325 页

青空文庫

「秀吉様のおことばで、ご子息はそれがしの郷里、美濃の菩提山の城へお預かり申すこととなりました。片田舎ではありますが、ご安心な点では、随分ご懸念ない所と思います」

と、告げた。官兵衛は心からそれに謝したものの、

「いや、それは思わぬご厄介をかけました。ご郷里において、竹中家のご薫陶を得ればあれにも何よりよい修業です。しかし、かかる世の慣らい、松千代の身命については、どうか少しもお庇いなく、唯々、ご主命のままの者と思召し下さい。如何なる場合に、如何なる事になろうとも、決してあなたをお恨み仕るような親心は持ちませぬ」

と、自分の覚悟のほども語った。ただ呉々、中国で再会の日近きようにと誓って別れた。

秀吉主従は、船で長浜へ帰った。湖畔の水門から湖上へ浮かび出た屋形造りの一艘がそれだった。

その頃ちょうど官兵衛も安土の町を離れ、湖畔の松並木を西へ向って歩いていた。供の侍が、

「あれ、筑前殿が扇を振っておられまする」

と注意したので、官兵衛は駒を留めて凝視した。扇の日の丸が赤くうごいている。松千代も側に見える。竹中半兵衛も見える。

官兵衛も手を振って答えた。顧みれば安土の城頭の巍然たる金碧もまさに天下布武そのままの偉観ではあったが、やはり官兵衛の心を深くとらえたものは、この際でも、彼方に打振る一本の日の丸の扇に如くはなかっ