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くろだじょすい
黒田如水
吉川 英治
「週刊朝日」朝日新聞社、1943(昭和18)年1月~8月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 163,639 字 · 325 页
官兵衛の陣所もその一院にあった。折ふし彼は武装のまま論語を読んでいたが、思わぬ友の訪れに、歓んで迎え上げ、まず挨拶を終るとすぐ、
「お体はいかがです。陣中生活では敢て無理もしますし、食物もままならないので、ご病気がすすみはせぬかと、筑前様にも常にお案じなされておるが」
と、友の健康をたずねた。
竹中半兵衛に会うと、まず何より先にそれを問うのが、官兵衛始め幕僚たちの通例になっていた。事実、半兵衛の容体は、戦場へ来てから決して快くない容子なのである。鋼鉄の如く日に焦けた皮膚と髯武者の揃っている中にあって、彼の顔だけが際立って白かった。軍議の時など、藪の中に一輪の白椿が咲いているように、いつも口少なく秀吉の側にいた。
けれど彼のことばを聞けば、聞く者の方が爽やかになるのが常であった。彼自身はまぎれもない病体だが、彼は決してその苦痛や憂鬱を人には頒けない。きょうも変らない微笑を静かに見せていた。
「いや、ありがとう。持病というものは、ご推察をいただくほど、当人はさして苦痛でもありません。それが常態になっておりますから」
「時に、安土のご援軍は、急速に参るでしょうか」