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くろだじょすい

黒田如水

吉川 英治

「週刊朝日」朝日新聞社、1943(昭和18)年1月~8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 163,639 字 · 325 页

青空文庫

と、むしろ官兵衛の言を、不満とするような語気で、それの完全を力説した。

「いや、きのうまでは、それでよかったのですが、摂津一円も、毛利方に組した今日においては、大きな破れを生じています」

「はて? ……左様かの」

「お気づき遊ばさないのは無理もありません。この官兵衛は播州の生れなればこそ、初めて気がついたほどの間道です。――それは淡河の南約一里ほど先に見える丹生山の切所。あれは播摂の二国に境し、道らしい道もありませんが、あれを越えれば、摂津の物資を三木に輸送し三木の城兵が摂津へ通うことも、さして至難ではございませぬ」

「摂津の荒木が寝返った今日では、すでにそこには一塁を新たに築いて、三木か摂津かいずれかの兵を籠め、また輸送路も切り拓いているに違いありません。何とか、お味方においても、それへ手段を考えないことには、いかに三木の三道を塞いでも、毛利の兵糧船は摂津の花隈あたりから兵糧を上げて、丹羽を越え、淡河を経、その方面から難なく城中へ物を送り入れるでしょう」

この献言は秀吉を心から感謝させた。ましてや官兵衛は今、苦境中の苦境に悩み、更に一歩、死を期す以上の苦しい所へ赴こうとしている寸前である。