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くろだじょすい

黒田如水

吉川 英治

「週刊朝日」朝日新聞社、1943(昭和18)年1月~8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 163,639 字 · 325 页

青空文庫

「いや、ずっとお供いたしましょう。姫路までも、御着までも」

「よいと申すに!」

官兵衛は睨めつけ叱った。

「ここは一兵たりとも大事だ。ひとたび平井山のご陣が敗れんか、織田方全体のやぶれとなろうも知れん。――まして城方に比しては手薄なところ、わしの留守中には、百人分も戦え。――来るなっ」

「はいっ」

「帰れっ」

「はっ……」

悄然として、主人思いな郎党は、山上の陣地へ、戻って行った。

その後ろ姿も見、また秀吉の営をも上に仰ぎながら官兵衛ほどな武士の鉄腸も、掻きむしられる思いがした。叱って追い返した郎党はともあれ、秀吉の寂寥を考えると胸が傷む。

片腕と恃んでいた病軍師竹中半兵衛が、京地へ療養のため山を去ってからまだわずか十幾日。いままた、自分もその側を離れ去って行く。自ら高く持すのではないが、秀吉の平常の言そのままを以てすれば、半兵衛は左の腕と思うぞ、官兵衛はわが右腕だぞと、酒興のうちにもいっていた主人である。しかもこの苦戦に直面している平井山の秋、やがて早い霜も降ろう、雪も降ろうに。――と官兵衛は駒を止めてしばしは去りがてな容子であった。

死ぬなよ。

死にますまい。