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くろだじょすい
黒田如水
吉川 英治
「週刊朝日」朝日新聞社、1943(昭和18)年1月~8月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 163,639 字 · 325 页
ひいてはまた、官兵衛というと、その名を聞いただけでも、すぐ顔色を変えて、ぐらつき出す主人政職をも、そのことばを以て、叱咤し、牽制しているのでもあった。
その政職も、宿老たちも、
(官兵衛が帰って来たからは、必ずや姫路の城に拠って、父宗円の兵力と、近郷の味方を糾合し、一面、浮田家にも助力を求めて、この御着を攻めるだろう)
と、その行動を必然と察していたのである。
ところが、その朝、早馬に鞭打って、飛び込むように、城門へ入った一物見のことばは、彼等の予察をまったく覆したもので、
「官兵衛は、昨夜姫路に着きましたが、なぜか姫山の城には入らず、町中の目薬屋、与次右衛門の家に泊り、やがて今朝は、この御着へ向って来るらしい様子に窺えます」
と、いうのであった。
「何。――直接これへ来ると? してその人数は、どれほどか」
十分、戦備は固めているものの、老臣たちは、ひとしく色を作して、早口に訊ねた。
物見はそれに答えた。
「ひとりです。ただ一騎です」
「えっ。官兵衛一人だと?」
「されば、小者も連れておりません」
「はてな?」
何か、鮮やかに背負い投げでも食わされたような顔つきである。