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くろだじょすい
黒田如水
吉川 英治
「週刊朝日」朝日新聞社、1943(昭和18)年1月~8月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 163,639 字 · 325 页
……そうか、なるほど。早馬で次々先触れしたものだな」
「何しろ往来はきびしゅうございまする。ご城下に住むてまえどもでも、ご領外へは一歩も出してくれませぬ」
「さもあろう。領内の状況が、織田家へつつぬけでは工合がわるい」
「いよいよ織田方との合戦になりましょうか」
「それは、村重どのの心一つだが……。すでに、信長公に対し、反旗をひるがえしたからには当然戦う覚悟であろうな」
「三木城の衆や、毛利家のお使いは、のべつ城門へ入っているような様子で」
「三木城の者は山越えで入って来るだろうが、毛利衆はどこから来るの」
「海から上がって参りまする。本願寺の衆なども」
「旺んなものだな。村重殿の鼻息も荒かろう。……だが新七、おぬし長く伊丹に住み、城内のご用も勤めておる者ゆえ、何かと噂は聞いておろうが、一体、荒木村重ほどの者が、何が原因で、俄に、毛利家へ款を通じ、信長公へ弓を引く心になられたものか。……そちは何か聞いていないか」
「いや、それに就いては、世間の噂も区々でいろいろにいい囃されておりまする」
「たとえば、どんな事を」
「村重様の戦功と、ご出世をそねんで、明智日向守様が、ひそかに信長公へ讒したのが因だとか。