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くろだじょすい
黒田如水
吉川 英治
「週刊朝日」朝日新聞社、1943(昭和18)年1月~8月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 163,639 字 · 325 页
「ふ、ふ、ふ……」と、初めて笑った。そして急にこんどは、話題を転じて、
「どうだ、筑前は達者か」
と、たずねた。
官兵衛もまたその答えを放擲して、さきの向けて来た話題にかまわず、
「主人小寺政職よりも、くれぐれもよろしくとの申し伝えにござりました」
と、いった。
うすあばたの痕のある瞼を、村重はパチパチとうごかして、
「お汝は今、御着におるのか。平井山におるのか」
「御着へもどっておりまする」
「そうか。何日?」
「近頃ではございますが」
「然らば、今日、使いとして来たというのは、筑前の使いではなく、小寺殿の使いで見えたのか」
「左様です。――これはまた、それがしのぬかりでした。まず、主人政職よりのこ書簡をご被見下しおかれますように」
「どれ……」
侍女へ向って、頤で取次をうながし、その間に初めて、一方の手で童女の手から莨を取り、大きく一ぷく喫って返した。
書簡はすぐ官兵衛の目前で封を切った。読み下すうちに荒木村重の面に複雑な色がうごいた。元来正直者である。内にうごく感情の色をつつんでいることのできない顔だ。
官兵衛は見ていた。もちろんその書簡は読み得ないが、彼の顔色に映し取ってそれを読むに難くないとしていた。