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くろだじょすい

黒田如水

吉川 英治

「週刊朝日」朝日新聞社、1943(昭和18)年1月~8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 163,639 字 · 325 页

青空文庫

また、後になれば、これほどな危地へ臨むに、なぜ書中の文意を途中でなりと確かめていなかったかと人は悔んだが、かりそめにも主人の書簡を家臣として携えて来たものである。死の魔符がそれに封じ込まれてあると分っていても、封を破って偸み見るようなことは武門としてゆるされもせず、官兵衛としても自己に辱じる。

いずれにせよ、ここは伊丹城中、しかも反旗をたてて、世を観るにも血眼であり、合戦は明日をも知れずとしている殺気満々な所でもある。官兵衛のいのちはすでに、官兵衛のものでない。政職の手紙とともに、それは荒木村重の手ににぎられているものだった。

「ううむ、小寺殿より此方へご意見か。かたじけないが、摂津守がこのたびの発意には、さてまた口には語りきれぬ仔細もあること。……官兵衛、まず寛いで、悠りと話そう。どうだな、あちらへ移らぬか」

村重はこうぶつぶついってから、家臣の者へ、酒肴の用意などいいつけ、先にぷいと起って、もういちど官兵衛にむかい、

「篤と、あとで語ろう。わしの意中をもだ。いま案内させるゆえ、あちらで待て」

といいのこして奥へかくれた。

小侍が来て風呂をすすめたが、官兵衛は断わった。