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くろだじょすい

黒田如水

吉川 英治

「週刊朝日」朝日新聞社、1943(昭和18)年1月~8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 163,639 字 · 325 页

青空文庫

小父様。いつ帰っておいでたの?」

「たった今」

「たった今? そう。ちっとも知らなかった」

庭の松千代は縁先にある人の袴の裾へ、背伸びして取り縋った。袴のすそで自分の顔を包んだりして戯れた。

(――人馴つこいものよ。やはり父母を離れて、遠い他人の手に養われているせいか)

そう見るにつけ、半兵衛の胸は、可憐しと思う気持でいっぱいになった。

「さ、上がれ。都のみやげを遣わそう」

南禅寺から貰って来た菓子など与え、しばしこの少年と戯れた。

長浜から預かり取って、この山城に養うこともはや二年、松千代はもう十二になっている。黒田家から傅人として井口兵助、大野九郎左衛門などを付けてよこしてあるが、竹中家としてもほとんど主人半兵衛の嫡子同様に待遇していた。講書、弓馬の師匠もつけて、珠の如く守り育てていたのである。

帰国の翌日。半兵衛はひとり菩提山のふもとを歩いた。祖先の展墓のためだった。

するとその帰途を待っていたもののように、二名の侍が道ばたに跼っていた。見ると、黒田家から来ている松千代の傅役井口兵助と大野九郎左衛門であった。

「かような路傍において、甚だしい不しつけにはございまするが」