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くろだじょすい
黒田如水
吉川 英治
「週刊朝日」朝日新聞社、1943(昭和18)年1月~8月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 163,639 字 · 325 页
小屋敷ほどな構えをもち、土塀の中を入るといきなり細工場だった。具足の小貫、装剣の飾り、馬具の小金物、何くれとなく飾金の職人の手にかける金銀の細工物はここでやっている。小型のふいごやら、小刻みの鎚の音やら、やすりの音やら、細工場には十六、七人の男が背をまろくしたきりで精出している。
新七も、時々は顔を見せるが、多くは奥の母屋にひっこんでいた。よく友達を寄せて、碁を囲んだり、酒を酌んだりしていた。奥と細工場とは、雨でも降ると不便なほど、庭木を隔てて離れていた。
「お菊。たれか来たらしいぞ。裏門から」
彼は今、ふたりの客と、何事か首をよせて、密談していた。ふたりとも昨日、有馬の湯の帰りから立ち寄った知人とかで、ゆうべはここに一宿した旅人だった。
「……客かの?」
旅人は眼をくばった。裏門の鳴子を聞いたからである。客が客を憚るにしては、その眼はすこし険しすぎる。
「いや、滅多な者は、裏門からは来ないはずです。……ま、そのままでおいでなさい」
新七の声はひくい。
そして少し身をのばしながら、台所口から穿物をはいて出てゆく義妹のうしろ姿をのぞいていた。
二
この春ごろから、新七の母屋の生活は、すっかり変っていた。