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くろだじょすい
黒田如水
吉川 英治
「週刊朝日」朝日新聞社、1943(昭和18)年1月~8月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 163,639 字 · 325 页
すると室殿は、何でも気さくに答えた。ほかの侍女には語らないことまで彼女には話してくれた。
それによると、室殿は、いまでこそ荒木村重のお側女として、この西の丸に、思いのままな綺羅と侍きに囲まれているが、決して、名門の息女や、名ある者のむすめでないことが分った。
かつて村重が、中国陣へ参加した帰途、室の津の辺から連れもどった港の妓がその前身らしいのである。そのせいか時々、中国訛りが出るし、また思いがけない下々のことばなどを戯れにせよよく弄ぶ。
「きゅうくつだねえ、お城の中は。そなたは、そう思わないかえ」
これは時々、室殿が、ため息とともに洩らすことばで、聞き馴れているが、どうかすると、その美しい眉をよせて、
「はやく、敵が来て、このお城が陥ちてしまえば、いい。そうすれば、帰れるかもしれない……。あの室の津へ」
こんな大胆なことを平気でいったりするのである。それも、必ずしも、声をひそめてではない。その通りに、村重の耳へ聞えてもいいというような態度をしてである。
二
室の津といえば、お菊の家のある飾磨にも近い。同じ播州である。彼女は、どうしても脱くことのできない中国訛りを、この中国そだちの室殿が、聞きわけていないはずはないと怖れた。