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くろだじょすい
黒田如水
吉川 英治
「週刊朝日」朝日新聞社、1943(昭和18)年1月~8月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 163,639 字 · 325 页
「あさましや。恃むべからざるものを恃んでおられるのだ。……さきには、高山右近や中川清秀を両腕のように恃んでおられたではないか。その高山、中川らが寝返り打って、逸早く織田の軍門へ降っているのをながめながら、なおこの主人はお眼がさめない」
そう考えて、暗然たる顔いろを湛え合うのであったが、村重の毛利にたいする、今に今にの空恃みも、この八月になっては、さすがに口にしなくなっていた。
反対にこんどは口を極めて、毛利輝元の不義不信を罵り始めた。九月一日の軍議のときにも、
「何らかの方法を取って、毛利家の来援を急に促さねばならぬが、書状も度々やってあるし、密使も屡つかわしてある。この上は、自分自身が参って、吉川、小早川などにもきびしく面詰するしかない」
などといっていた。
彼のその言を聞いても、諸将はいっこう浮き立たなかった。第一、そんないとまがあるかということが考えられるし、また村重自身が毛利側の代表と会見するなどと望んでも、今となっては、その場所を得ることすら困難なことは知れきっていた。
けれど、勇猛は勇猛でも、思慮にかけては単純な村重は、その可能を多少信じていたものらしいのである。