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くろだじょすい

黒田如水

吉川 英治

「週刊朝日」朝日新聞社、1943(昭和18)年1月~8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 163,639 字 · 325 页

青空文庫

村重に説かれてやむなく居残った宿老荒木久左衛門、池田和泉は、口を極めて激昂する将士をなだめた。みなこれ味方の為の窮余の一策であり、万が一にも、殿が花隈城まで参って、海上へ船で脱し、毛利家の領内まで無事に達することができれば、折返して、かならず吉川、小早川の水軍が、大挙して救援に来る。――或いは海上をすでに摂津へ向って続々来つつある途中かもしれないのだ。それが到着しさえすれば、城外の織田軍などは半日のうちに囲みを解いて退散しよう。戦ってくれ。もう一息である。もう幾日かの辛抱だ。ここでこの城を捨てては一年の籠城も諸士の働きもまったくの水泡に帰してしまう。――たのむ、といわぬばかりに、三老臣は、慰撫に努めた。声をからし汗をふきふき説得した。

「たとえどうあろうと、主の非を鳴らすは、家臣の道でない。またこの悲境を見て、戦いを避けるも卑怯に似る。このうえは死あるのみだ」

ようやくにして、家臣はそこへ落着いた。とはいえ内面的な動揺はやむべくもない。以来、城中の士気は、一葉一葉落ちてゆく晩秋の喬木にも似ていた。脱走者は相継いでやまないし、城外からのさまざまな噂も寒風の如く入って来る。