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くろだじょすい

黒田如水

吉川 英治

「週刊朝日」朝日新聞社、1943(昭和18)年1月~8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 163,639 字 · 325 页

青空文庫

石橋をたたいて渡るような一益の戦略にもどかしくなったのも無理ではない。

「よろしいでしょう。機は充分に熟しておりまする」

かねてから一益は、城中の中西新八郎を説いて、味方にひき入れてあるので、成算はすでに立っていた。ひそかに連絡を取って、日時を約し、

――内応の火の手をあげよ。

と、促した。

新八郎らの一味としては、その決行を待ちぬいていたほどだった。なぜならば、ようやく、自分たちの変心は城中の味方に勘づかれているふうだし、それらの者が激昂して、いつ不意打に出て来るか知れないような危険が、身に迫っていたからである。

滝川一益から密々の指令は、十月十八日の夜とあったが、それまでは到底待ちきれないほど、険悪な実状にあったので、とうとう二日まえの十月十六日の夜、織田軍へ諜し合わせる遑もなく、無断で城中の一隅から火の手をあげてしまった。

「なお、二日間はある」

として落着いていた城外の織田軍もあわてたが、より以上な混乱は、もちろん伊丹城の中にあって、

「さてこそ、変心組が仮面を脱いだな」

「うぬ。先手を打って来たか」

と、ひとつ城を坩堝として、味方同士が相討ち相仆るるの惨を火炎の下に描き出したのである。