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くろだじょすい
黒田如水
吉川 英治
「週刊朝日」朝日新聞社、1943(昭和18)年1月~8月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 163,639 字 · 325 页
おのれはそれを奪りに来た者か」
と、官兵衛の足くびを掴んで、力まかせに引き戻した。
善助は太刀を揮って、片手撲りにうしろの敵を斬った。その武者の絶叫は、返り血とともに、善助の面を打ったが、敵が勢いよく仆れるのと一緒に、官兵衛の体も善助の背を離れて、諸倒れに大地へ転んでいた。
「殿を。殿を。――善助、殿だけを」
敵の中から叫んでいるのは味方の母里太兵衛なのだ。その姿も見えないほどな数の中に没して彼は善戦に努めていたが、ただ主人官兵衛の身だけがうしろの気懸りであるらしかった。
しかしこの時、忘れていた盟友たちの声がどこともなく聞えた。藤田甚兵衛、後藤右衛門、長田三助などの面々にちがいない。
「善助ここか」
「来たぞ、太兵衛」
戦友を力づけて、喚くや否、ほとんど、わき目もふらぬ姿で、荒木勢の中へ突込んで来たのである。
槍は飛ぶ。陣刀は折れる。噛みつく。撲り合う。
荒木勢とはいえ、あの村重の家臣とはいえ、ここまで籠城を堅持し、「城と共に」の義を捨てなかった者だけに、いわば粒選りの剛の者どもであった。
一味の助勢が加わっても、彼はまだ屈しない。せめて黒田官兵衛の首をみやげとして、最期の華を飾ろうとするかのような猛戦力を発して来る。