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くろだじょすい
黒田如水
吉川 英治
「週刊朝日」朝日新聞社、1943(昭和18)年1月~8月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 163,639 字 · 325 页
もう悪戯ざかりの少年時代にそのおじい様の思想が少年の心になりかけていた。
で、彼はまず、こんどの使命を、その祖父へ告げねばと思い、また自分の志と変りなき姫路城の父へも一言――と心がいそがれるのであった。
「おう。万吉どの。万吉どのよな」
誰か、彼を呼んだ。――久しぶりに幼名を呼ばれた彼は、駒をめぐらして、道の横を見まわした。
炎天の埃に白くよごれた老僧が、達者そうな足で近づいて来た。官兵衛はあわてて鞍を跳び降りて、
「これは、師のご坊。お久しぶりでございました」
と、両手を膝まで下げて挨拶した。
姫路城下の浄土寺の住持である。非常に和やかな人なので、円満坊円満坊と町の衆はみな称んでいる。
官兵衛は、このお坊さんにも、薫陶をうけた。父の宗円が、まだ城持ちともならず、浪人の生業に目薬など売りひさいだ貧窮時代からそう後のことでもない。その頃からこの坊さんは単に読み書きばかりでなく、少年だましいの苗床に、いろいろな訓育をさずけてくれた恩師である。
が、まるで友達みたいに円満坊は、
「万吉どの。どこへ行かっしゃる」
と、額の汗塩をこすって問う。
「実は、旅へですが」