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くろだじょすい

黒田如水

吉川 英治

「週刊朝日」朝日新聞社、1943(昭和18)年1月~8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 163,639 字 · 325 页

青空文庫

「あ。……あの夜、あの折にもおったのか」

「焔と煙を冒して、殿のおられる場所へ、われらを導いてくれたのは、於菊どのでありまする。――もしあの際、於菊どのなかりせば、こうして主従がふたたびお目にかかる事ができたかどうかわかりません」

「解せぬのはその於菊がどうして伊丹の城中にいたのかじゃ。今もそれを彼女にたずねていた所だが……」

「殿ご救出のためわれら十三名が死を誓って姫路を発足いたした時から、於菊どのも決死組のうちに加わっていたのでございまする」

「あのかよわい身で」

「父の与次右衛門は年老っておることゆえ、自分を代りに召連れて給われと、われら同志の者へ強っての頼みでした。――で、伊丹の白銀屋新七とは、義理ある兄妹でもありますので、新七の手づるを以て、城内にある離反の者を語らい、奥仕えに入れて、ひそかに殿のご安否をつねに探らせていた次第にござりまする」

この事は官兵衛も初めて知ったのであった。異様な感動に心も痺れたかの如くそのまま口を緘んでいた。廊下を歩むしずかな跫音がそれとともに主従の耳に聞えた。於菊である。命ぜられた水を器に汲んでもどって来た。

一碗の水を彼女の手から飲ませてもらうと、官兵衛はまた仰向けに寝姿を直して枕の上の眼をふさいだ。