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くろだじょすい

黒田如水

吉川 英治

「週刊朝日」朝日新聞社、1943(昭和18)年1月~8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 163,639 字 · 325 页

青空文庫

すなわち毛利軍の独壇場ともいうべき瀬戸内の海上権にものをいわせて中国沿岸は元より大坂から芸州にわたる間には、きょうこのごろその水軍たる大小の兵船がわが物顔に監視の眼をひからせて、一舟の航行でもうかつに見のがすことはないと沙汰されている。

「万一の事に遭遇して、われらの斬り死になすはいと易いが、殿のお体はまだまだ充分でないし、片脚のきかぬ御身を以ては、とても敵地を駆け抜けることは難しい。……一体どこを通るが、最もご無事か?」

この問題は、湯宿を立つ前夜まで、太兵衛や善助が頭をなやましていた事だった。

ところが、ここしばらく顔も見せずにいた白銀屋新七が、ふと、思いがけない妙案を携えて、それを土産に、出立の朝、ここの湯宿を訪ねて来た。

それは近衛家の往来手形だった。官兵衛の祖父明石正風と、近衛家の当主との風交は、近年こそ途絶えているが、その縁故は歌の道のほうからいっても浅くない関係にある。新七は従来、近衛家の仕事も折々うけていたので、伊丹の囲いが解けると、同志の一名、後藤右衛門と共に京都へ出向いて、官兵衛の立場を訴え、近衛家の用務をおびて諸太夫の者が西下する旨なることを認めた公卿状を乞いうけて来たのだった。