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くろだじょすい

黒田如水

吉川 英治

「週刊朝日」朝日新聞社、1943(昭和18)年1月~8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 163,639 字 · 325 页

青空文庫

そのうちに三木城でも陥ちたらば、いずれ一度は立ち帰るが」

と、国許への言伝てだけを途中で与えて、自身は直ちに、秀吉の長陣している北播磨の奥地へ向ってしまった。

山地へ向って行くほど、秋の色は深く、急に季節を覚え出した。途々の悪路には、輜重の車馬が踏みあらした轍が深く刻まれている。到るところ柵の破壊されたあとや塹壕のあとが見られ、草むらに落ちている刀の折れやかぶとの鉢金の錆を見ても、ここのあたりの戦いの長い年月と激戦が偲ばれてくる。

その後、秀吉の軍は、一塁一塁を力攻して、いまはかつて官兵衛がいた頃の平井山の本陣をずっと前方へすすめ、依然として、なお陥ちずにいる三木の城と対い合っていた。呼べばこちらの声が敵へとどくぐらいな近距離の一高地に、秀吉の陣営は移されている。

「孝高。いま帰りました」

「おお。官兵衛か」

「ご心配をおかけ致しましたが」

「真に一時は案じたぞ。……だが、よくぞ、よくぞ」

秀吉と官兵衛とが、一年余を経て、ここで再会したときの両者の感激は、到底、筆舌には尽し難いものがあった。またそれを語り合うに必ずしもことば多きを要さない二人でもあった。