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くろだじょすい
黒田如水
吉川 英治
「週刊朝日」朝日新聞社、1943(昭和18)年1月~8月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 163,639 字 · 325 页
「さても、お久しいことでござった。今日、こうして無事な姿が見られようとは、まことに、禍福は糾える縄のごとしとか。人生の不測、分らないものですな」
例のごとく、口少なく、表情のない彼であったが、友の再生をよろこぶ精神的な真実さにかけては秀吉以上なものすらあった。
その夜、秀吉は、小宴を催して、
「この陣中にも、何もなくなって来たが、壺酒乏しければ風趣を酌むじゃ。久しぶり水入らずで――」
と、主従三名、鼎座になって、夜の更くるまで語りあった。
山の秋は寒かった。官兵衛もなお自重して多くを飲まないし、半兵衛もほとんど杯を手にしないほどである。陣屋の廂から映す月光のせいとも思われたが、官兵衛は余りに白い半兵衛重治の面が案じられて、ふとこう訊ねた。
「――時に、あなたのご病気の方は、幾分かお快しいのですか。――今日一日は、何やら自分の無事ばかり祝されておったが」
「いや、それがしの体は、どうも相変らずです……」
と、半兵衛は自己の痩躯をかえりみながら、自ら憫笑を与えていった。
「所詮、この病身は、不治のものと、医師も匙を投げておるようです。しかし、百年生きても遭い難き名主にお会いし、ただ長寿だけしても得難い良友を持ち、更には、またなき時世に生を得て、すでに三十六歳まで生きたのですから、天にたいして不足を思う筋合もありませ