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くろだじょすい
黒田如水
吉川 英治
「週刊朝日」朝日新聞社、1943(昭和18)年1月~8月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 163,639 字 · 325 页
「では、何しに来たのか」
「――実は、それがしと相識の小森与三左衛門は、後藤将監の次席におります者ゆえ、矢文をつかわして、会談を求め、彼の手引に依って、密かに、後藤とも面会いたし、その効いがあって、昨夜深更、ことし八歳になる我が子を郎党に負わせて訪ねて来たものでござります」
「――子を負うて?」
「はい。基国の一子です。それを敵のそれがしに託し、自分はふたたび城中へ帰りました。……殿。三木城の陥ちるのもはや両三日を出でませぬぞ」
「まことか」
「何でいつわりを」
「どうして、そういえるか」
「城中にはもう食うべき草も木の皮もありません、馬の屍も、鼠すらも食い尽しておりまする」
「兵糧米の涸渇はすでに幾月も前からだが、しかもなお、城兵の意気はあのように旺んである。死を決しているあの意気で打って出られたら、たとえ城は取り得るまでも、味方の損害は容易なものではすまぬ。……それを考えに容れてのことか」
「決死の鉾先をうけては堪りません。故に、それを避くべきで、それがしの苦慮もそこにあります」
「では、汝の思う所、即ち、我が思う所だ。どうするか」
「こよい、これから、私が城内に参って、主将の別所小三郎と、一族の者に会い、篤と談じつけます。