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くろだじょすい

黒田如水

吉川 英治

「週刊朝日」朝日新聞社、1943(昭和18)年1月~8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 163,639 字 · 325 页

青空文庫

「信長公が自身攻めつぶして行かれた後は、草木も枯れてしまう酷しさだが、筑前守が攻め陥したあとには、何となく寒土から木や草の芽が萌え出るようなものが残る。いったいこれは何の違いだろうか」

そのころから世人の気もちの中には、漠然とではあるが、こういう観察がどこかに根ざし始めていた。

――とはいえ、秀吉の地位は、柴田、丹羽、滝川などの諸将に比しては、なおまだ遥かに低かった。ただこの戦果を挙げて以来、

「筑前もさる者」

と、それらの重臣たちからも、いささか従来の眼をあらためられたことは確実である。尠なくも彼をさして猿々と呼ぶが如き者は、自分に恥じて、次第に減って来たことだけは明らかであった。

「――半兵衛重治に見せたかったよ」

三木城へ入城して、あちこち検分した日、秀吉は沁々いった。

官兵衛も、それを思い出していたところである。心のうちで、故人を偲び、今日の事を、その霊に告げていた。

「なるほど、この要害では、容易に陥ちなかったわけだ。ここを自分の拠城とさだめて、中国の経略に臨むもいいな」

「いや、いけません」

「いけないか」

「さればです。守るには、要害無双といえましょう。