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くろだじょすい

黒田如水

吉川 英治

「週刊朝日」朝日新聞社、1943(昭和18)年1月~8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 163,639 字 · 325 页

青空文庫

筑前は気がみじかい。急いでくれよ」

「では、早速、出立いたしまする」

数日の後、官兵衛は、姫路へ立った。従者十数名を連れ、道中は乗り更え馬と、例の陣輿との両方を携えていた。

久し振りの帰家である。さきに松千代は帰してあるが、彼としては、伊丹遭難後、初めてわが家へ帰るのだった。

馬に乗るにも、陣輿の上にいるときも、彼は膝の前に、ひとりの孤児を抱いていた。少年はことし九歳になった。

去年、三木落城のまえに、別所の老臣後藤将監基国から、一夜ひそかに、

(あなた以外に、この子の末をおたのみ申すお人はない。三木落城のときは、いずれは城とともに相果てる身、頑是ないこの一子まであの世へつれてゆくに忍びぬので、煩悩とおわらいもあろうが、家臣の端へなと置かれて、どうか成人までお育みをねがいたい)

と、敵の将から託された一子なのである。

「又坊、何をぽかんとしているのだ。さびしいか」

「ううん」少年は首を振って――「何ともない」

と、ぶっきら棒な返辞をした。しかし大人の官兵衛には、子供のわりに至極無口なこの少年のひとみが淋しげに見えてならなかった。

「わしを父と思え。死んだ基国から、お前の父に成り代ってくれと頼まれたわしじゃ。