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くろだじょすい
黒田如水
吉川 英治
「週刊朝日」朝日新聞社、1943(昭和18)年1月~8月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 163,639 字 · 325 页
何とのう、その辺が、心もとなく思わるるが」
「由来、お人のよい殿様です。それがしがお側にあればよくそれがしの説を容れられるが、また、それがしが少しでもお城を離れていると、たちまち邪説異論に耳をかし給い、毛利に組せんか、織田に頼らんかと、あれこれお迷いあそばすのがご欠点です。……思うに、末のお小さい姫君を、毛利家へ質子として渡されたのも、殿ご自身、まったくご存知ないことではないかもしれません。半分はそれにご同意を示し、半分はこの官兵衛の吉左右を心待ちにお待ちになるものと愚考されまする。――故に、たとえ老臣衆や一族の誰彼が、いかに策謀してみても、それがしが岐阜から立ち帰るまでは、決して、殿は旗幟を鮮明になさるような事はありますまい。で、まずこの官兵衛が電馳して、岐阜から戻って来るまでは、かならずこれ以上、御着の城に変化はないものと思われまする」
「いや。よう仰せられた。……そこまで深く考えておざるものなら、野衲の取越し苦労などは、もう無用無用。お元気で行っておいでなされ」
「おさらばです。太兵衛、善助。わするな、いま申しおいた頼みを」
官兵衛のすがたは、見ているまに、彼方の畷を、馬けむりにつつまれて行った。