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くろだじょすい

黒田如水

吉川 英治

「週刊朝日」朝日新聞社、1943(昭和18)年1月~8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 163,639 字 · 325 页

青空文庫

「勇壮勇壮。官兵衛もまだ壮年、秀吉も壮年。やがてこの旗幟が、どれほど敵また敵の中を次々に分けて進むか、官兵衛一代にかけて見ものであろう」

と、祝辞をのべて、後、酒宴のとき、

「家紋は滅多に更えるものではないと申すが、何で藤巴にあらためたのか」

と、いぶかしげに訊ねた。

すると官兵衛は杯を下において、この夜初めて秀吉に伊丹城中一年の苦しみを述懐したとのことである。そして座にいあわせた母里太兵衛や、栗山善助などの家臣をもかえりみて、

「これらの者の忠節をわすれぬ為と、身にとっては、喉元すぎると熱さを忘れるの喩えもありますから心に驕りの生じたときは、すぐ伊丹の獄窓を思い出すように、と希う心からでござります。――あのころ、日々、仰ぎ見ては、心に銘じた獄窓の藤花こそ、申さば官兵衛の生涯の師であり、家の吉祥でもありますので」

と、答えたという。

もういちどここで彼の年齢を指折ってみよう。とき天正九年、彼は三十六歳であった。