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くろだじょすい

黒田如水

吉川 英治

「週刊朝日」朝日新聞社、1943(昭和18)年1月~8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 163,639 字 · 325 页

青空文庫

大事なお使いの途中にありながら、いつまでも恋々と女子供などと別離をかなしんでおるか。よいかげんにしてはや立て。いまから急げば明るいうちに飾磨の浜から船に乗れよう。一刻の差が、過てば、十年の悔いをのこすことにもなるぞよ」

「いや。こう長くいるつもりもありませんでしたが、つい時をうつしました。では、おいとま申しまする。お父上にも、どうぞご堅固に」

「わしの事など、少しも顧慮いたすな。さあさあ、はやく行け」

すると、若い妻は、ふいに松千代を膝に抱いて、うしろ向きに身を捻じると、しゅくと、声をしのばせて泣きだした。

官兵衛がまだ二十二歳、彼女がやっと十五のとき、この家に嫁いで来たのであるから、八歳の子は持っていても、まだ年ばえはようやく二十三にしかならない妻であった。

しかもこの婦人は、小寺政職の姪で、容姿は麗しく、才藻はゆたかで、国中の美人といわれていた女性だった。

(――ひょっとしたら、今生の別れとなるかもしれない。むりもない。いじらしい)

宗円にもその心根は、胸の痛むほど察しられはしたが、わが子の使命と、結果の重大さを思うと、子や嫁などは眼の隅にも入れてはならないように意志された。