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くろだじょすい
黒田如水
吉川 英治
「週刊朝日」朝日新聞社、1943(昭和18)年1月~8月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 163,639 字 · 325 页
そして衝立の蔭で自家製の目薬をせっせと貝殻の容器につめていたお菊へいいのこすと、自分はもうあたふたと草履をつッかけて往来の向うへ駆けていた。
「おうおう、これはいかな事、若殿ではござりませぬか。どうして、遽にただおひとりで、これへは」
官兵衛のうしろへ廻って、共に、埃をたたいたり、笠を取ったり、下へも措かないばかり迎えて先へ立ちかけると、
「爺や、爺や。おれの身よりは、その馬のほうを先に、裏口の方へ曳いて行ってくれ。そしてすぐ鞍を外して、奥へかくしておけ。鞍は人目につき易いからな」
「では何か、お微行で、火急、おわたり遊ばしましたか」
「微行も微行、一切、人目を怖れる密かな途中だ。わけてここは諸国の者の出入りの繁しい港町。はやくせい。仔細はあとで話すから」
「はい。はい。――おうい、むすめよ、裏の木戸を開けておけ。馬を曳くぞ」
与次右衛門は、何事ともまだ分らないが、馬の口を取って、大あわてに、路地へ曳きこんで行った。それを見ながら官兵衛は、店の框に腰を下ろして、わが家へ入るような気易さで、草鞋を解き、足を洗っていた。そしてふと軒に懸けてある古い板看板の――