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くろだじょすい
黒田如水
吉川 英治
「週刊朝日」朝日新聞社、1943(昭和18)年1月~8月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 163,639 字 · 325 页
「あはははは」
官兵衛は独りして笑いだした。この船頭の唖だったことを思い出したからである。
で、与次右衛門が来た上にしようと、ぽつねんと彼が来るのを待っていた。ところが案外暇どって、どうしたわけか、だいぶ遅れてようやくここに姿を見せた。
「お待たせいたしました。実は、後から出て参りますと、ちょうど町の辻で、衣笠殿にばたりと、お出会いいたしましたので、そのために……」
と、後を見て、身を避けた。
姫路にある父の近臣、衣笠久左衛門が、やはり目薬売りに身装を変えて、笠を両手に、黙然と膝まで頭を下げていた。
「やあ久左衛門。何でそちは、おれのあとを慕って来たか」
「大殿のおいいつけでございまする」
「なに、父のいいつけだと。……姫山の館へ立ち寄って、お別れのご挨拶を申しあげた折は、あのように膠なく、はやく立て、何を恋々としておるかなどと、此方の未練を叱るように追い立てながら」
「――と、お励ましなされながらも、親御のお身なれば、胸のそこに、如何ばかりこのたびのお旅先を、ご心配あそばしておらるるや知れませぬ。……で、若殿がお立ち出での後、やがて私をお召になって、途中不慮の事あっては、一子の生命はともあれ、中国全土の将来にも関わろう。