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くろだじょすい

黒田如水

吉川 英治

「週刊朝日」朝日新聞社、1943(昭和18)年1月~8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 163,639 字 · 325 页

青空文庫

垢は襟につみ、顔は真っ黒に焦け、眼のくぼの肉すら薄くなっている。今は誰が見ても、小寺家の重臣ともその郎党とも思わなかった。家伝の「玲珠膏」を売り歩く旅の汚き男どもとしか見えない。

「どうだ、久左衛門。この城下の繁昌さは。いや活気というものは」

「えらい勢いでございますな。道行く人の眼いろ、足どりまでが、中国とはちがっております」

「そうかといって、市に集まる物資を見ても、町の文化を一眄しても、物の豊かな点とか民度の高いことでは、西国の諸城市や港々のほうが、ずんと優れておるのだが」

「何かしら、このように、燃ゆるようなものが、中国にはございませんな」

「保守的な毛利家の方針が自ら現われている西方と、革新脱殻の意気に燃えている東方との相違だ。これをもって、時代をうごかしてゆく中心の力が、いずれに在るかは明瞭ではないか」

歩きながら官兵衛はよく語った。またよく事物を観察していた。そして道ゆく者が近づくとすぐ口を緘むのであった。人目に対して装うことに主従はいつか熟練していた。

「ところで、信長様へお会い遊ばすには、どなたか、織田家の宿老中でも、もっとも信長様のご信任篤いお方を介して、お目通りを願い出られるのが、上策ではございますまいか」