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くろだじょすい
黒田如水
吉川 英治
「週刊朝日」朝日新聞社、1943(昭和18)年1月~8月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 163,639 字 · 325 页
岐阜全城下が眠りに入る真夜半でも、ここの界隈には、火花がちっていた。
ときは長篠合戦の直後である。久しいあいだ不敗の鉄軍と誇っていた甲山の武田をして、一転、第二流国へ蹴落してしまった程な大捷を博して凱旋したばかりの領主をいただいている職人町であった。景気のよいのはもちろんであるが、鼻っぱしの強いことも一通りでない。汗を洗う間もない顔をしている半裸の群像が、往来にも家の中にも仕事小屋の中にも、殺気立っているのである。
そして口癖にいうことには、
「姉川だって、長篠だって、こっちの大勝ちはあたりめえなことさ。おれたちの御大将はべつもんだが、憚りながらおれたちの鍛ったものには、槍一本、鏃ひとつにも気が入っているんだ。――見ていろ、越後の上杉も、本願寺も、中国の毛利だって、何だって、おれの鍛冶小屋の鞴でみんな焼き溶かしてくれるから」
官兵衛主従の泊っている木賃の隣は、こういう人々が息つぎに集まる居酒屋らしく、夜に入ってこれから眠ろうかと思う頃が、壁隣では、これからという賑やかな盛りになって来るのだった。
騒ぎ声だけならよいが、時には壁が揺れて、梁の鼠糞が寝顔へ落ちて来たりする。