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くろだじょすい
黒田如水
吉川 英治
「週刊朝日」朝日新聞社、1943(昭和18)年1月~8月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 163,639 字 · 325 页
場合によっては、譜代の大身を介さないで、その人を通じて、信長に会おう。
黒田官兵衛が、織田家の羽柴というものを、意識においたのは、国許にいるうちからであった。けれども、その人物に、かくまでの傾倒をもったのは、岐阜へ来てからで、かねての期待をいろいろな意味の事実に裏書きされたからである。
譜代の宿老たちとか、織田家の上将のあいだでは、今以て、「猿」という陰口が行われ、評判はあまりよくないというよりも、むしろ事ごとに悪いらしい。けれど中堅の新進部将のうちには、彼に対する正当な評もあり、尊敬も持たれていることは確かで、就中、官兵衛をして「この人こそ」と信頼させたものは、城下の庶民の声である。ここには秀吉との対立観念もなければ利害もないので、正直にみな羽柴様羽柴様とその徳を称え、小谷の藤吉郎どのといえば、衆口一致して、
(あれは偉いそうだ……)という。
試みに、官兵衛自身が、何でそう彼が庶民に支持されているかを考えてみると、ほかの勇将猛将とちがって、藤吉郎秀吉には、さしたる武勇の聞えはなかった。けれど、奉行を勤めても、築城に当っても、領政を任じられても、秀吉の職につく所、大きな成績の上がっていない場合はなかった。