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くろだじょすい

黒田如水

吉川 英治

「週刊朝日」朝日新聞社、1943(昭和18)年1月~8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 163,639 字 · 325 页

青空文庫

「お待ちください。それがしが訪れてみますから」

衣笠久左衛門が、小門をたたいて、中の番兵に、何か告げていた。秀吉の意志が通じられていなかったのか、ひどく質問がきびしい。もっとも、当夜も官兵衛はべつに着更えをもたないので、目薬売りの姿のままだったので、怪しむほうが当然でもあった。

「しばらく待っておれ」

そういわれて、門外に佇んでいること、実に小半時におよんだ。――が、やがてべつな家臣が数名して迎えに来たときは、その無礼を謝し、下へも措かないほど慇懃であった。

「実は主人秀吉には、北近江より当地まで参るあいだ夜もほとんど、宿所ではお寝みなく、野営しては一睡をとり醒めればまた馬をすすめ、不眠不休の状態で参りましたあげく、着くやいな、この宿舎にも立ち寄らずご本城へのぼられて、信長卿とご対談、つい夕刻頃、ようやくこれへお下りになったようなわけで……お行水を召されるやいな、大鼾をかいてお寝みになられていたものですから。――まことに失礼いたしました。さっそくお目にかかろうとのおことばです。いざこちらへ」

と、手燭をかざして、寺の庭を、奥ふかくまで導きながら、羽柴家の人々は、交にいい訳をのべて、客に謝するのであった。