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くろだじょすい
黒田如水
吉川 英治
「週刊朝日」朝日新聞社、1943(昭和18)年1月~8月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 163,639 字 · 325 页
秀吉は手を取らんばかりであった。恰も十年の知己を迎えたようですらある。一国一城の主といえばとかく威容を作りたがるものなのに、そんな気振はみじんもない。しかも予想以上その風采は至って堂々たるものではなかった。官兵衛も大男のほうではないが、秀吉も小柄である。ただ人いちばい大きいのはその音吐であった。体に似合わない大声がこの人の自然であるらしく、客が席に着くと挨拶も甚だ簡単にかたづけて、
「御辺のおうわさはかねてからよく聞いておる。そちらでは初対面と思われておるか知らんが、この筑前は何やら旧知の如き気がいたす。――と申す仔細は、信長卿のお供をして幾度か京都に在るうち、ご主君とご昵懇な近衛前久様から屡おうわさが出たものでござる。……御辺の祖父にあたらるる明石正風どのには、近衛家のご先代にも、いまの前久卿がお若いうちにも、歌道の指南として常にお館へ伺候せられていたそうな」
と、思いがけぬことから話しはじめて、中国の一田舎に過ぎない御着の近状から黒田家と小寺家との関係にいたるまで、官兵衛が意外となすほど、よく知っている口吻であった。
「中国にも人物は尠なくないが、わけて姫路の目薬屋の息子どのは、有為な者、将来ある嘱目に値する男と、これは近衛家の人々からばかりでなく、摂津の荒木村重などから聞きおよび、折もあらば一度お会い