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くろだじょすい
黒田如水
吉川 英治
「週刊朝日」朝日新聞社、1943(昭和18)年1月~8月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 163,639 字 · 325 页
彼には常備の兵船数百と千余の輸送船があって、絶えず浪華や泉州と交通し、また石山本願寺とも連絡をとっているが、まだ織田家には一艘の兵船、一隊のお舟手ある由も聞いていません」
このとき秀吉は実にいやな顔をした。二本の皺が眉のあいだに立った。こういう苦々しさも時には示す人かと思われたくらいである。
感の敏い官兵衛は、すぐ杯を下に置いて、それを緘黙の機とした。もしこのあいだに、傍らの竹中半兵衛が、くすくす笑ってくれなかったら主客のあいだに、ぴんと亀裂が入ったまま、救い難い空気となってしまったかも知れなかった。
「……官兵衛」
秀吉も苦笑し出した。竹中半兵衛のそれに釣りこまれて、ぜひなく笑ったというかたちである。
「もう、ご酒は充分です」
官兵衛はわざとあらぬ答えをして、とぼけると、
「いや、酒はすごせ。……だがな、官兵衛」
「はい」
「あまりほんとのことを申すなよ」
「何がですか?」
「やはり汝は、この筑前よりも、九歳はたしかに若いな」
「織田家の今日あるゆえんも、これからもっと必要な力も、その若い力と夢ではありませんか」
彼はいっぺんに気楽になった。まだ若いと折紙をつけられたからである。