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くろだじょすい
黒田如水
吉川 英治
「週刊朝日」朝日新聞社、1943(昭和18)年1月~8月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 163,639 字 · 325 页
官兵衛、御辺には何ぞ芸があるか」
秀吉の横道ばなしに、官兵衛はやや業を煮やして、
「小唄舞も仕る。猿舞も仕る」
と、嘯いて答えた。すると秀吉は、
「それは器用な男だ。どうじゃ一さし舞わんか」
と、自分の持っていた扇子を与えた。
「ここではご免です――」と官兵衛は手を振って断った。そして隅の方に眠たげにひかえている小姓へ向い、硯筥を求めて、その扇子へ何やらしたため終ると、
「殿こそ、お謡いください」
と、秀吉の手へ返した。
酬われた一矢を苦笑してうけながら、秀吉は脇息から燭の方へ白扇を斜めにしながら読んでいた。
更けてのむほど
酒の色
かたりあふほど
人の味
夜をみじかしと
誰かいふ
いづみ、尽きなき
さかづきを
「半兵衛。この裏へ、何ぞ認めてつかわせ」
巧みに交わして、秀吉はそれを、竹中半兵衛へあずけた。半兵衛は筆をとって、裏面へ、
与君一夕話
勝読十年書
と書いて、
「殿のおいいつけなので、ぜひなく汚しました」
と、さしだした。
ふと手に取ったが、官兵衛は、じっと見つめている眼から、次第に酒気を払って、まだ墨の乾かぬ白扇をそっと下へ置き直すと、ていねいに両手をつかえて、半兵衛へ、