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くろだじょすい

黒田如水

吉川 英治

「週刊朝日」朝日新聞社、1943(昭和18)年1月~8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 163,639 字 · 325 页

青空文庫

姫路の急援には他の人があろう」

「ありません」

「何じゃと」

「官兵衛こそは、寸時たりともお側を離れることはできない。御着全城の兵といっても、千に足らぬご人数、この官兵衛の指揮する者を除いては、尊公たちを将とし、物頭どもを副将として、お差向けある以外、城中どこに軍がありましょうか」

「なぜ、お汝自身、陣頭にお立ちあらぬか。姫路もお汝の父宗円どのが城代として守りおる所。このご城中にも、お汝父子の息がかかっておる部下も多い」

これは一族の小川三河守ででもなければいえないことばだった。しかし、官兵衛は、何の威圧も感じないような面で、それへもこう答えた。

「事は急です。城門の守備は、すでに手の者が配置につき、このご本丸もことごとく官兵衛の一存で、要所要所守らせました。それがしの命はすなわち主命。主命はまた織田殿の軍令も同じである。誰にもあれ、反く者は、この一戦の終るまで、獄へ下して取籠めておくしかない。敢て、今日の合戦に、軍律を紊す者は誰と誰か。お名乗りなさいっ。断乎、処決する」

みな黙った。

しかし戦いは、城の外よりも、或いは、ここにあるかともいえる程、けわしいものが、官兵衛をとり巻いたままだった。