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くろだじょすい

黒田如水

吉川 英治

「週刊朝日」朝日新聞社、1943(昭和18)年1月~8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 163,639 字 · 325 页

青空文庫

いや町屋ばかりでなく浜の漁村にもいた。

元より船手だの水軍などと称せるような組織はないが、「浜の衆」の一手は、夜に入ると、無数の漁船を放って、沖に纜を繋ぎあっていた毛利船に近づき、火を放ってこれを焼打ちした。

船にはほんの水夫と兵糧の者ぐらいしか留守していなかったので、ここの戦場は、黒田の「浜の衆」に完全に蹂躙されてしまい、幾艘かは焼け沈み、残る船は、あわてふためいて、沖遠く逃げてしまったのである。

海上の火が、陸の浦兵部丞の戦意を、極度に沮喪させたことはいうまでもない。潰走はこの刹那から始まった。四分五裂となった浦勢は、やむなく三木城へ通ずる街道の方面へ逃げ争ったが、そのときには、御着の城を発した黒田官兵衛自身と、その腹心の輩が、精兵を選んで、随所に兵を伏せていたので、道といわず、畑といわず、森といわず、いたるところで敗敵を捕捉しほとんどこれを殲滅してしまった。

「……片づいた」

と、宗円と官兵衛の父子が、ほっと大息をつきながら、万感の裡に、無事な顔を見あわせたのは、その夜も明けた朝方だった。

「まず、一時の危機は脱しました。……が、次には敵ももっと腰を入れて来るでしょう。