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ゆきのじょうへんげ
雪之丞変化
三上 於菟吉
「朝日新聞」1934(昭和9)年11月~1935(昭和10)年8月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 344,083 字 · 673 页
世間の注目があつまればあつまるほど困難だ。彼は、女形という仮面のもとにかくれて、専ら繊弱優美を装っていてこそ、どんな、あらあらしい振舞いを蔭でしても、それが自分の仕業だと、一般から目ざされるわけがないのを喜んでいたのに、この闇太郎の耳にさえ、脇田一松斎皆伝の秘密が洩れるようでは、ともすれば、今後の行動に不便が生ずるかもしれぬ。
「どなたからお聞き及びかはしりませぬが、どうぞそのようなことは、お胸におさめておいてくださるよう、女形の身で、竹刀をふるなどということが、世間さまに知れわたりましては、それこそ、御贔屓の数がへります」
と、重ねていうと、闇太郎は、にこりともせず瞶めたまま、
「だがなあ、雪之丞さん。おれの眼には、お前という人は、舞台の芸も、世の中の人気も、あんまり用のねえ人間のように思われてならねえんだよ」
と、これまでとは違って、ざっくばらんな敬称ぬきの言葉でいいかけるのだった。
「どうしてでしょう。親方」
と、雪之丞も親しげに、
「わたしは上方の女形、芸術一途でいくらかは、人さまにも知られてきましたが、もとはといえば親一人、子一人、長屋ぐらしも出来かねた体、芸と人気だけが、命のような身の上ですのに――」