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ゆきのじょうへんげ
雪之丞変化
三上 於菟吉
「朝日新聞」1934(昭和9)年11月~1935(昭和10)年8月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 344,083 字 · 673 页
四
素直な男は、あわてた。
「いいえ、どうつかまつりまして、あなたさまに、戻れの帰れのと、そのような、失礼なことを、どうして申し上げられましょう。ただ、いかにも、お屋敷の、お父ぎみさま、お兄ぎみさまの、御当惑がお気の毒でなりませぬゆえ、お城をおさがりあそばすにいたせ、一応は、お顔をお見せなされまして大目晴れて、お暇を願うことにいたしたら、八方、美しくおおさまりになるであろう――と、そのように、母親も、いい暮しているものでござりますから――」
「まあ、その乳母までが、それでは、わたしのあのような頼みをも、打明けばなしをも、裏切って、お城や、お父上の、味方についてしまったものと見える――それも、道理といえば道理――わたしは今日、世をしのび、お前方の情でかくまって貰っている身、何の権威もなくなってしまっているし、その上、わたしのいうままにしていたら、あとで、きびしいお咎めもあろうかと、案じるにも、無理はない。今更、お前たちがわたしを、この家に置くのを、迷惑とお言いなら、いかにも、尤もゆえ、早速、ここを立ち去りましょう――」
浪路は、美しい顔を、青ざめさせて、唇を、血の出るほど、噛みしめるのであった。