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ゆきのじょうへんげ

雪之丞変化

三上 於菟吉

「朝日新聞」1934(昭和9)年11月~1935(昭和10)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 344,083 字 · 673 页

青空文庫

一三

右手の方の男に、隙が多いと見たから。

「どうぞ、お通しを!」

と、叫びざま、サッと、袖の下を潜り抜けると、もう一人が、また前にまわって来て、

「女だてらに――あぶない――刃物なぞ手にして?」

「ですから、おあぶのうござりますぞえ!」

雪之丞、煩わしくなって、嚇すように、懐剣を、わざと、チラと、閃めかして見せたとき、

「や! おのれは!」

と、鋭く、しかしびっくりしたような声が、立ちふさぐ侍の口から洩れた。

と、同時に、トン、トンと、二あしばかり退って、踏みしめると油断なく構えて、刀に、手をかけた容子――

雪之丞も、相手が、本気になって、身を固めたので、屹ッと闇を透かしてみつめると、あろうことか、それが、昔の兄弟子、今はあきらかに、敵とみとめずに置けぬ、門倉平馬なのだ!

「ほう、そなたは?」

と、思わずいうと、

「江戸は、広いが、狭いのう――雪之丞、久しぶりだな? よう逢えたな?」

「なに、雪之丞?」

伴れの武士、おどろいたように呟いた。

「今夜も、今夜、貴公から聴いた?」

「うむ、その女形だ」

と、黒い影が、うごめいて、

「のう、雪、今夜は、始末をつけてしまった方が、お互に為めであろうな?」