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ゆきのじょうへんげ
雪之丞変化
三上 於菟吉
「朝日新聞」1934(昭和9)年11月~1935(昭和10)年8月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 344,083 字 · 673 页
八
、とうとう成功してしまったのだった。
八
その横山五助、どうにかして、浪路の行方を突き止め、土部家へ戻そうとして、たった今まで、心を砕き、この小家をとうとう発見したのであったが、人間の慾念というものは、奇しいものだ。日ごろ、ずッと眠りとおしているのが、どんなきッかけから、呼びさまされて、急にムクムクと、頭をもたげて来るかわからない。
小家のまわりを、警戒しながら、ちらちらと、かすかに洩れて来る美しいこえを聴いているうちに――そして、甚太郎との物語が、なかなか尽きそうもないので、いらだたしい気持を押えかねているうちに、ふッと、
――浪路どの、どんな暮しをしているのか? 大奥で過していた身が、こんな乏しげな家で――
と、思って、裏手にまわって、閉め忘れたらしい小窓に、灯火がほんのりさしているのを見つけ、はしたなく、隙見をしたのが、因果だった。
怨じやつれた、美女が、恰度そのとき、おくれ毛もそのままに、雪之丞に対する熱い恋を、甚太郎に、掻きくどいているところだったのである。
その風情が、何とも言われず、艶で、仇めいて、横山五助、生れてはじめて接する魅惑的な光景であった。