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ゆきのじょうへんげ
雪之丞変化
三上 於菟吉
「朝日新聞」1934(昭和9)年11月~1935(昭和10)年8月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 344,083 字 · 673 页
一六
「拙者は又、この事が、早くも世間に洩れているのかと、びっくりいたした。実は、大奥の方へは、まだ、浪路さま、おからだ本復せず――と、そう申し上げてあるので、土部家としては、どうしても、一日も早くあのお方を、探し出して、お城へお戻しせねば、とんだことに相なるのじゃ。なにしろ、御息女は、御寵愛が激しかったので、中老方の嫉妬も多いゆえ、これが曝われたら、大事にもなろうというもの――」
一六
美女は、とかく、相手の異性から、秘密を打ち明けさせるような、一種の魅力を持っているものだ。
門倉平馬は、一道場のあるじに過ぎぬが、世に聴えた権臣土部家の機密に預かるばかりか、柳営大奥の秘事にさえ通じているということを、お初の前で披瀝して、相手から尊敬を買いたいような衝動に駆られたかのように、今は、つつしみを忘れて、しゃべりつづけるのだった。
「只さえ、どうにかして、浪路さまを現在の御境涯から蹴落し、君寵を奪おうと、日頃から狙いに狙っている女性たちの耳に、この真相が達した破目には、まるで蜂の巣を、突付きこわしたような騒動が起るは必定――しかも、それが、大奥だけに止まる話であればまだしもじゃが、第一、三斎さま、駿河守さまの、御威勢も、言わば、浪路さまの御寵遇が、預かって力がある筋もござるし、このおふた方の権威が、又、世間の嫉みを買う